「あなたのアクティビティを追跡することを許可しますか?」
最近、iPhoneでアプリを開こうとして、こんなメッセージを目にすることが増えていませんか?
同時に表示される選択肢は「トラッキング(追跡)しないように要求」するか、「許可」するかの2つ。実はこれ、あなたの利用データを広告目的で収集し、第三者に提供することを認めるかどうかを尋ねています。
いま、アメリカでは「あなた」がどちらの選択肢を選ぶかをめぐって、議論が白熱しています。“ネット広告の転機”とも言われる、その議論とは?
(ロサンゼルス支局記者 菅谷史緒)
IT企業急成長の源、ターゲティング広告
ここで言われているアクティビティとは、スマホなどの利用者がどんなアプリを利用したかや、どんなウェブサイトを見たかといった一つ一つの行動の履歴のことです。氏名や電話番号などは特定してはいないものの、利用者の好みや関心が凝縮された個人データとも言えます。
これまでは、あなたがひとたびアプリを利用すれば、アプリの開発者はあなたの行動履歴や位置情報などを自由にトラック(追跡)し、個人データを第三者の広告会社などに提供してきました。企業はこうしたデータを活用することで、あなたの興味や関心に合った広告をスマホ上に表示できたのです。
世界中に何十億人もいる利用者の好みに合わせて、狙い澄ましたように広告を打てることから「的を狙う」という意味で「ターゲティング広告」と呼ばれています。消費者に効率よく製品やサービスを売り込みたい広告主にとって有効な手段であり、だからこそ、グーグルやフェイスブックなど、ネット広告を主な収入源とする巨大IT企業が急成長を遂げる原動力にもなってきました。
しかし、プライバシー保護への意識が高まる中で、こうした手法に対しては「利用者の私生活を“丸裸”にし、いわば売買の対象にしている」として、批判的な世論も高まっています。そうした中で、冒頭のように利用者にメッセージを表示し、事前にデータ利用の可否を尋ねる仕組みが始まったのです。
アップルが「待った」
この仕組みを導入し、ターゲティング広告に「待った」をかけたのは、ほかならぬIT大手のアップルです。
ことし4月、アップルは「あなたのデータの一日」という利用者向けの資料を公表。1つのアプリには平均で6つのトラッカー(追跡機能)が組み込まれ、利用者の個人データはほかのアプリや広告会社といった第三者と共有されていることなど、ターゲティング広告の手法を詳しく説明しています。
こうしたデータの売買などの“市場規模”は年間2270億ドル、日本円でおよそ25兆円にのぼるとしています。そのうえで、最新の基本ソフトであるiOS14.5からプライバシー保護の機能を強化すると発表。利用者が知らない間にデータを追跡されるのは問題だとしたうえで、透明性の確保を理由に利用者がデータを提供するかどうかをみずから選べるようにしたのです。
利用者がデータの提供を「許可」すれば、これまで通りですが、「トラッキングしないように要求」を選べば、利用データは追跡されません。自分の履歴を知られたくない利用者にとっては好ましいことですが、データを追跡できなくなることで、消費者に対し、これまでのような精度の高い広告を打てなくなるという見方も出ていて、ターゲティング広告にとっての“転機”とも言われています。
“よくないね”!?
アップルの対応に異を唱えているのがフェイスブックです。
フェイスブックは、スマホの基本ソフトの開発を手がけるアップルやグーグルとの関係では、スマホ向けにアプリを開発・提供する企業の1つという位置づけになります。年間9兆4000億円を超える売り上げ(2020年12月期)のうち、実に98%を広告収入が占めるフェイスブックは、アップルが構想を発表した段階から強く反発。新しいiOSの機能によって広告の効果が落ちれば、ビジネスモデルにも大きな影響が及びかねないからです。
プライバシー保護を大義名分に掲げるアップルに対し、フェイスブックが強調するのは、限られた広告費しか持たない中小の事業者への悪影響です。
●また、アプリのサービスの多くを無料で利用できるのも広告収入があるからで、そうしたサービスにも重大な影響が及ぶとしています。
●さらにアップルの本当の狙いは、プライバシー保護の名のもとに他社のビジネスへの制約を強めつつ、自社のビジネスに有利になるよう情報を囲い込むことだとして、批判しています。
ザッカーバーグCEO
「アップルは利用者のためだと言うかもしれないが、実際には他社との競争で優位に立とうという自社の利益に基づいている」
グーグルも対策強化 その狙いは
アップルとフェイスブックが激しく対立する中、グーグルもプライバシー保護の強化に動きました。
インターネットの利用者がウェブサイトを閲覧した履歴は電子情報として記録され、ネット広告の配信に利用されていますが、グーグルはことし3月、利用者の履歴を追跡する機能について、新たな開発や導入をしない方針を明らかにしました。
すでにグーグルは、2022年までに自社の閲覧ソフト「クローム」上で、こうした機能を使わないようにすることを決めていますが、今回、機能の停止後も似たような技術は採用しない姿勢を明確にしたのです。
一方で、個人を特定せずに、同じような関心を持つ人たちをグループ化して広告を配信する新しいシステムの開発を進めていることを明らかにしています。
IT大手が相次いでプライバシー保護の強化に動いた背景について、アメリカ企業の戦略に詳しいコロンビア大学ビジネススクールのリタ・マクグラス教授は、利用者のプライバシー意識の高まりがあるとしています。
マクグラス教授
「IT企業が日常のあらゆる場面で人々の行動を追跡し、個人を特定できる能力を持ってしまっていることに多くの人が重大な懸念を抱いている」
そして、マクグラス教授はアップルについては「多くの利益を製品の販売を通じて上げていて、フェイスブックのように広告に依存しているわけではない。アップルの狙いは、自社の基本ソフトは安全だと利用者に信頼してもらい、製品を使い続けてもらうことにある」と指摘します。
プライバシー保護、競争の行方は
そうした中で、アップルやグーグルがプライバシー保護の強化を打ち出したことは、一歩前進と言えそうです。
ただ、すでに多くのデータを握る両社の影響力が、さらに強まるのではないかという見方もあり、決定の背景には、ライバル企業との競争を見据えた冷静な計算も見え隠れしているように見えます。
利用者のプライバシー保護と公正な競争の確保に向けた最適解とは?
私たちの重要な権利と直結する問題だけに、今後も議論の行方を取材し続けたいと思います。
ロサンゼルス支局記者
菅谷 史緒
平成14年入局
ニューデリー支局、
イスラマバード支局、
経済部を経て
おととしから現所属
June 02, 2021 at 03:31PM
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