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NHKネット進出の欺瞞 稲葉新会長が取り組むべき小泉政権の“宿題”とは - ITmedia ビジネスオンライン

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 NHKの新たな会長に元日本銀行理事の稲葉延雄氏が就任することが決定しました。稲葉氏は日銀を退いた後にはリコーで取締役会議長を務め、民間企業のガバナンス管理に関わった経歴の持ち主です。インターネットが圧倒的な存在感をみせ、情報媒体の世界に大変革が進んでいます。こういった流れを受け、フランスや英国では公共放送の業態の見直しに向けた動きも出始めており、同じ公共放送であるNHKにいかなる改革の道筋をつけるのか、大いに注目されるところです。

photo 稲葉延雄氏(出展:リコー公式サイト)

NHKのネット利用で有識者が議論中

 NHKに関しては、時同じくしてこの秋から、NHKの公共放送としての役割と受信料のあり方を有識者らで議論する総務省の作業部会(公共放送ワーキンググループ)が動き出しています。作業部会の名目上のテーマは、テレビだけでは先細りが確実なNHKのネット業務を本来業務に位置付け、これを受信料の対象とすることの可否を検討するというものです。

photo 総務省

 現状、NHKのネット事業は補完業務に位置付けられており、その予算は年額200億円が上限とされています。一方で受信料収入の総額は、年間7000億円もの莫大な規模にあり、今以上の業務の肥大化は公共放送本来の役割を超え、民業を圧迫するのではないか、との懸念の声が根強いのもまた事実です。

日本新聞協会はけん制 「公正競争が阻害」

 現実にこの作業部会の動きに合わせ日本新聞協会は「採算度外視で業務展開できる競争上の問題がある」として、ネット業務の拡大について「公正競争が阻害され、言論の多様性やメディアの多元性が損なわれかねない」と、NHKのネット業務の拡大に真っ向から反対する姿勢を示し、作業部会に対して早々にけん制球を投げています。

 同協会はさらに「ネット業務の拡大の議論を始める前に、業務範囲の妥当性を客観的に判断できる仕組みづくりが必要」と、ネット業務の可否以前に公共放送としてのNHKの抜本的な業務の見直しが必要ではないかとの問題提起もしており、この点は大いに注目に値します。

photo 新聞協会の声明

若者で進むテレビ離れ チューナーレステレビの普及進む

 10年前、20年前とは比較にならないほど、媒体としてのテレビの存在感は薄れています。今や若者のテレビ離れは激しく、YouTubeなどの動画サイトの日常的視聴はもとより、テレビ番組すらネット配信で見るというライフスタイルが、一般的になりつつあるからです。

 最近のトピックとしては、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」から、テレビチューナーを外した製品が発売され、放送法が定める受信料が必要な設備に該当しないことから一部から「NHK受信料不要のテレビ」として話題となり、一時品薄となりました。インターネットテレビ「ABEMA」がサッカーワールドカップ(W杯)の全64試合を配信し、好評だった点も、地上波からネットへのシフトを象徴する出来事となりました。

photo ドン・キホーテのチューナーレステレビ

(関連記事:“NHK受信料を支払わなくていいテレビ”を製品化 ドンキの狙いは?

一筋縄ではいかないNHK改革

 そんな中で公共放送を掲げたNHKが国民から一律で受信料徴収することが正当なものと考えられるのか、という議論は以前にも増して高まりつつあるといえます。だからこそ、NHKはその必要性を増すべくネット業務の拡大を目論むわけなのですが、そこには民業圧迫という民間事業者の反発が付いて回るわけで、一筋縄ではいかないというのが現状なのです。

 ならばいっそのこと民業に委ねられる業務は分割民営化し、真に公共放送にふさわしい部分だけを公共放送NHKとして残せばいいのではないか、という議論になっていくわけなのですが、これがまたそう簡単な話ではないのです。

NHK民営化に反対の民放各社 事実上の“援軍”に

 分割民営化論は簡単に言うと、報道や教育部分を公共NHKとして残し、民間放送と業務的にダブるドラマ、バラエティ、スポーツ中継などの娯楽部門を民営化して、民間放送と同じスポンサー提供かあるいは有料放送としてスクランブル化するのが望ましいという案です。受信料は劇的に安くなることは必至であり、月額1225円の地上波受信料が500円以下になることは確実視されています。

 個人的にはこの分割民営化案には大賛成なのですが、これにはまた強力な反対勢力が存在しているのです。それは既存の大手民間放送局(以下民放)をはじめとした民間放送媒体企業です。NHKが娯楽部門を民営化するなら、民放にとっては強力なライバル企業が出現することになるためです。

 ただでさえ、21年の広告費でネットが「テレビ・新聞」が上回る(電通調べ)など広告媒体としてのテレビ一強の時代が終わりを告げ、スポンサー確保に四苦八苦している現状で、巨大な内部留保を持つNHK娯楽部門が民間参入するのは大反対であるわけなのです。

photo 在京キー局の1角「テレビ朝日」(出典:港区観光協会)

(関連記事:2021年のネット広告費2.7兆円、初の「テレビ・新聞」超え 電通調査

政治家もNHK改革に及び腰

 そもそもNHKがこれまで何度かの行政改革や事業仕分けなどの変革期に国の外郭団体の組織見直しをことごとくかわしてこられたのには、こういった同業の「援軍」がいたおかげでもあるのです。民放各局はNHKの民営化反対を高らかに叫ぶというよりは、報道機関として民営化問題を積極的には取り上げないことで世論を盛り上げない、という戦略をとってきました。

 政治家のスタンスも基本は似たようなもので、やはり民間メディアが民営化反対である以上、彼らを敵に回すことになるような言動は避けたいという保身から、あえて火中に栗を拾うような者は出てこなかったというのが過去の流れなのです。

 中でも強烈に記憶に残っているのは、NHKの民営化議論が最大に盛り上がった小泉純一郎政権下の2005年の出来事でした。この折には、NHK職員の不正問題やセクハラ問題、さらにはやらせ報道が立て続けに発覚したことで「NHKの経営体制見直しを検討すべし」との過去にない世論の盛り上がりがありました。

 郵政民営化論を持論とする小泉首相の政権運営は「聖域なき構造改革=小泉改革」の真っただ中にあり、NHK問題も複数の有識者会議で議論がなされ、軒並み「公共放送見直しすべし」との結論が出されてもいたのです。

photo 小泉純一郎氏(出典:首相官邸公式Webサイト)

メディアを味方に 印象操作に長けた“小泉劇場”

 ところが、公共放送見直し機運が現実のものになろうかと思われた矢先、小泉首相は「NHKの民営化はしないという閣議決定(01年の「特殊法人等整理合理化計画」でのNHKは特殊法人のまま維持するというもの)を踏まえた方がいい」と突如NHKの経営形態見直しはしないという趣旨の発言をしたのです。

 突然の心変わりの裏に何があったのかは知る由もなく、NHKも民放もこの発言に胸をなでおろして無言を貫き、盛り上がりかけた見直し機運はあっけなく終息しました。メディアを味方に付けての印象操作が上手かった小泉政権だけに、民放との関係を重視した結論だったのではと思うところではあります。

変化する公共放送の役割 ネット業務拡大は生き残り策

 以後、公式の形で公共放送としてのNHKの存在意義を問う機会はほとんどないまま、17年の月日が流れました。公共放送としてNHKが発足したのは、戦後間もない1950年のこと。発足当時は民間放送局もまだ存在せず、戦後日本の復興を情報面から支えるという大役を担った公共放送としてのスタートでした。

 それから70余年、民放の多局化、メディアの多様化、ネット媒体の隆盛に伴うライフスタイルの変化などを受けて、公共放送の役割も大きく変わって当然です。その抜本的な見直し議論をすっ飛ばして、自己の生き残り策としてネット業務の拡大を求める現状のNHKの姿勢には疑問符しか浮かばないのです。

photo NHK(提供:ゲッティイメージズ)

仏→受信料廃止方針、英→受信料全面見直し

 海外でも今年、公共放送のあり方についての議論は活発化しています。フランスではマクロン大統領の選挙公約として公共放送の受信料廃止方針が示され、国の税金で賄う方法に移行される見通しとなりました。NHKが開局以来、手本としてきた英BBCも、そのあり方を全面的に見直す白書が今春提出され、受信料の徴収を2年間凍結して組織運営の抜本的見直しに入ったと伝えられています。

 必ずしも諸外国の動きに「右にならえ」ではないにしても、媒体の多様化、ネットメディアの台頭などによって公共放送見直しの必要性が高まっていることは世界共通であり、業務の見直しでこれをやり過ごそうなどという今のNHKのやり口は、世界的に見ても笑止千万ものではないでしょうか。

photo テレビ視聴のイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 このような情勢を踏まえれば、今NHKに求められるものは前田前会長が押し進めてきた「業務・受信料・企業統治」の三位一体改革などで決して収まるものではなく、公共放送のあり方という抜本的なものでなくてはならないはずです。

 稲葉新会長には時代の流れ、国際的な動向、受益者たる国民の要望をしっかりと受け止めた上で、経営形態にまで踏み込んだ改革に着手してほしいと思います。民放各局やネットビジネスで競合となる新聞各社も、あるいは政治家も、自己の利益や既得権益を守ることばかりを考えずに、公平な立場でこの問題をしっかりと取り上げるべきでしょう。国そして国民の財産でもある電波の活用をより国民の役に立てるという観点で、NHK改革の議論が盛り上がることを望みます。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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January 03, 2023 at 07:00AM
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