米スペースXの衛星インターネット接続「スターリンク」に対抗する動きが活発になっている。米国のスタートアップが2023年5月、低軌道・多衛星型を特徴とするスターリンクとは異なる高軌道・少衛星型で低コストのネット接続テストに成功した。市場拡大を見込んでM&A（合併・買収）が盛んになっているほか、米アマゾン・ドット・コムなど異業種も乗り出しており、競争が激化している。
通信衛星を介してインターネット接続を提供する業界が大きく変わりつつある。米スペースXと急拡大している同社の衛星通信サービス「スターリンク」に追いつこうと、この市場に参入する企業が増えている。
例えば、衛星通信スタートアップの米アストラニス（Astranis）は23年5月、低コストの衛星を静止軌道に打ち上げ、米アラスカ州のへき地にインターネット回線を確立するという大きな節目に達した。静止軌道の高度はスターリンクの衛星網がある軌道よりもはるかに高い。
今回のリポートでは、以下の3つに注目して衛星通信市場の勢力図について調べ、現状を分析した。
・資金調達総額
・企業価値
・M&A（合併・買収）
資金調達総額
衛星通信分野の企業による資金調達額は計187億ドル（約2兆6000億円）に上る。2023年に入ってからは計9200万ドルにとどまるが、22年までは4年連続で24億ドルに達している。
スペースXは依然として市場を支配している。同社はスターリンクなど様々なプロジェクトの資金として、97億ドルを調達している。スターリンクは目覚ましい成長を遂げ、最近では四半期ベースで初めてキャッシュフロー（現金収支）がプラスになった。23年には黒字化を果たす見通しだ。
一方、アストラニスは15年の創業以降、5億6300万ドルを調達している。
企業価値
スペースXは衛星通信市場で企業価値が最も高く、直近の22年12月時点の企業価値は1370億ドルに上った。スターリンクだけでも推定750億ドルと評価されており、スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者（CEO）はスターリンクを数年後に分離・独立させる可能性について言及している。
米衛星情報会社マクサー・テクノロジーズ（Maxar Technologies）は最近買収されたのに伴い、上場を廃止した。この買収でマクサーの企業価値は64億ドルと評価された。アストラニスの企業価値は23年4月、16億ドルに上昇した。
M&A
衛星通信業界ではスペースXに対抗するため、大型再編が起きている。
米通信大手ビアサットは21年11月、英衛星通信サービス大手インマルサットを73億ドルで買収した。この分野では過去最大の買収となった。最近の他の注目すべきM&Aは以下の通りだ。
・英衛星通信大手ワンウェブは22年7月、フランスの同業ユーテルサットと34億ドルの取引の一環として経営統合した。
・ドイツの保険大手アリアンツは22年初め、米衛星通信のインテルサットを買収した。（インテルサットは現在、ルクセンブルクの同業SESと統合に向けて協議している）
今後の見通し
衛星通信市場では競争が激しくなりつつある。アストラニスなどの企業は世界の需要に応えるため、次世代のブロードバンド衛星システムの開発に取り組んでいる。
スペースXなどの業界リーダーはなお成長し、米アマゾン・ドット・コムなど異業種のサービス開始も迫っており、ライバル同士の経営統合も進んでいるため、アストラニスなどのスタートアップは厳しい環境に置かれることになる。それでもなお、こうした新興勢は新たな技術の投入により、今後も大きな役割を果たすだろう。
June 19, 2023
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スペースXに対抗 衛星ネット接続、世界で活況 - 日本経済新聞
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