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前線地域で陸自ヘリ不明…なぜネット上で憶測が飛び交うのか 防衛省の情報発信を考えた:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

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 沈痛な空気が広がった。6日午後、陸上自衛隊第8師団所属のUH60JAヘリコプターが沖縄県の宮古島付近で行方不明となった。南西諸島で自衛隊の配備を拡大させる「南西シフト」のさなかに起きた今回の件。防衛省は「事故」と発表したが、彼らはどう受け止め、何をなすべきか。前線地域で起きた陸自ヘリの行方不明について考えた。(木原育子、中山岳)

◆搭乗の第8師団長 「部下の信頼厚かった」

陸上自衛隊のUH60JAヘリコプター(資料写真)

陸上自衛隊のUH60JAヘリコプター(資料写真)

 「このたびは国民のみなさまにご迷惑ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」。6日の会見で陸自トップの森下泰臣やすのり陸上幕僚長が深々と頭を下げた。

 同日午後3時55分ごろ、沖縄県の宮古島付近の洋上で陸自のUH60JAヘリコプターが行方不明になった。防衛省は、機体らしきものが見つかったことなどから航空機事故と判断しているという。

 UH60JAヘリは隊員の輸送や離島部の急患輸送などに用いられ、陸自に40機ある。行方不明のヘリは第8師団所属。この師団は熊本に拠点を置き、有事に沖縄方面へ派遣される。

 今回の飛行は現地視察のためで、坂本雄一師団長(陸将)ら10人が搭乗していた。坂本氏は第8師団のトップで、数千人の隊員を束ねる。自衛隊事故でも「前代未聞」の惨事になった。

 その坂本氏は3月30日に師団長に着任したばかり。2015年から陸上幕僚監部の広報室長を務めるなど、要職を歴任した。

防衛省

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 東京新聞で防衛省を担当した荘加しょうか卓嗣記者(48)=当時、現経営企画室課長=は「偉ぶるところもなく、部下の信頼も厚かった」と語る。地元の北海道旭川市の地酒やアイヌネギ(行者にんにく)を好み、ざっくばらんに話してくれたという。「省内でも悪い評判を聞いたことがなかった。どうかご無事でと祈るばかり」

◆不安広まる現場周辺「市民も危険と隣り合わせ」

 今回の件は現場周辺でどう受け止められているか。

 行方不明になった付近の池間島で民宿を営む井上一夫さん(75)は「あの辺りは青くて澄んだ海が特徴で、シュノーケルも盛んな所。早く見つかるといいのだが…」と心配そう。

 「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」共同代表の清水早子さん(74)は6日、宮古島で自衛隊の訓練をフェンスごしに監視していた際、視察する面々を見かけたという。

 同じく共同代表の仲里成繁せいはんさん(69)は「宮古島は武器弾薬などが配備され訓練も多い。宮古島の将来を暗示しているようで暗たんたる気持ち」と声を落とす。

 沖縄気象台によると、当時の気温は25.3度。少し風はあったものの、悪天候ではなかったようだ。

 元陸自レンジャー隊員の井筒高雄さん(53)は「運航中の操作ミスか整備のミスか…。いずれにしても人為的ミスの可能性が高い」とし、「師団長は総合マネジメントする立場。師団長が視察に動けば多くの幹部クラスも動く。本当にそれで良かったのか」と問う。

 沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は「師団長が行方不明とは、有事だったら完全アウト」とし、今回の件の重みを語る。

 さらに「訓練が激しくなり、整備が追いつかないなどの状況が顕在化したのではないか」と指摘し、「事故は基地内より基地の外で起きる方が圧倒的に多い。助かってほしいが、基地周辺に暮らす市民も危険と隣り合わせだと改めて突きつけられている」と続ける。

◆「南西諸島への機動展開、重視の表れ」

 行方不明になった現場を含む南西諸島は近年、陸上自衛隊が駐屯地やミサイル部隊の配備を進めてきた。

 2016年、台湾から約110キロ離れた日本最西端の与那国島に駐屯地を開設。19年は宮古島と奄美大島、今年3月には石垣島に開いた。背景には、海洋進出を進める中国への警戒感がある。防衛省は台湾有事を念頭に「南西シフト」を急ピッチで進め、岸田文雄政権は敵基地攻撃能力の活用に向けたミサイルの配備も検討している。

 そのさなかに起きた今回の「事故」。ヘリの所属元の第8師団は先にも触れたように、沖縄方面などの南西諸島に展開することも想定されていた。

 就任して間もない師団長ら幹部も乗っていたことについて、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「何かあれば南西諸島に機動展開することを第8師団が日ごろから重視している表れだ」と解説する。

 今回と同じタイプの自衛隊機を巡る事故は、過去にも起きていた。17年10月には浜松市沖で航空自衛隊の救難ヘリが墜落して3人死亡、1人が行方不明になった。空自は18年2月、操縦士が機体の高度や姿勢を把握できなくなる「空間識失調くうかんしきしっちょう」に陥ったとされる調査結果を公表した。

 今回の被害確認や原因究明が本格化するのはこれからになる。英軍事情報誌の東京特派員で国際ジャーナリストの高橋浩祐氏は「フライトレコーダー(飛行記録装置)やボイスレコーダー(音声記録装置)が見つかって解析できれば、回避措置が取られたかどうかなどが分かる。ただ、こうした調査には時間がかかるだろう」と指摘する。

◆軍事がらみの憶測 背景にウクライナ侵攻

衆院本会議で答弁する浜田防衛相

衆院本会議で答弁する浜田防衛相

 不明な点が多いなか、陸自は6日夜の時点で事故と判断し、発表した。ただネット上では「事故とは思えない」といった根拠のない意見、さらに中国の関与を疑う声まで出ている。

 飛び交う臆測に対し、防衛省はどう対処すべきか。

 高橋氏は「分からないことが多い段階では少ない情報から見方が偏り、先鋭化しやすい。陰謀論やデマも広がりやすい」と背景を読み解いた上で、「防衛省は間違いない範囲の情報を小まめに発信することが求められている。メディアも冷静に報じなければならない」と提言する。

 流通経済大の植村秀樹教授(国際政治学)は軍事絡みの臆測が生まれがちな背景として、ロシアのウクライナ侵攻の影響を挙げる。

 「日本でも、多くの人が軍事的な話や中国の動向を気にするようになった」

 ただ「本来はウクライナを巡る事情と、台湾を巡る状況は全く別の問題。それなのに政府でも浮足だった議論が目につく」と話す。

 その一例が、外国の気球が領空侵犯した場合に撃墜できるよう、防衛省が武器使用の要件緩和を決めたことだという。「本来は国会でもっと議論した方がよかった。有事を想定すると、『すぐに対処すべきだ』と声が強まるものの、拙速に物事を決めると国内では不安をあおり、国外には誤ったメッセージを送りかねない」と警鐘を鳴らす。

 「防衛の最前線」とされる南西諸島で起きた今回の「事故」。植村氏は飛び交う臆測のみならず、広まる不安に対しても手を打つように求めている。

 「自衛隊の拠点周辺の住民不安を取り除くために、まず今回の原因を徹底的に調査することが必要だ」

 さらに「急激な南西シフトに伴い、監視や機体整備を担当する自衛隊員らに過剰な負担やプレッシャーがかかっていないかも、検証されるべきだ。こうした調査や検証では、防衛省が情報をできるだけ開示することも求められる」と説く。

◆デスクメモ

 今回の件は国民も受け止めが難しい。原因がよく分からない一方、政府は事故と発表した。なぜそう言えるか。丁寧に伝えないと「あのせいでは」と臆測が広まる。時に誰かを傷つけ、不快にさせるのが臆測だ。無用の刺激は避けるべきところ。政府は情報発信の仕方に心を砕くべきだ。(榊)

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