米交流サイト・レディット上で結束した個人投機家連合が、空売りヘッジファンドを締め上げた件は、28日、新たな展開を迎えた。
一部米ネット証券が、標的にされた株式について売買制限措置を発動。売り手じまい以外の売買を受け付けず、証拠金も引きあげるという措置。代表的ネット証券会長がテレビに生出演したが、個人投機家の逆鱗(げきりん)に触れ、炎上のごとき状況になった。「ゲームの途中でいきなりルールを変えるな」との声が上がる。
米証券取引委員会(SEC)も事態注視の声明を出したが、個人投機家集団の「共謀行為」を立証できるかがカギになる。ここでも個人投機家たちが反発を強める。
ナスダックも状況次第で取引停止の姿勢を見せ、ヘッジファンドが損失埋め合わせのため保有資産売却に走るとの観測も流れる。個人側は「ヘッジファンドは空売り攻勢で株価を崩し、個人投資家をいじめてきた。それが、ヘッジファンドが空売り損切りを強いられるや、規制強化で救済されるようなものだ」と不公平感を募らせる。エリート軍団のスマート・マネーに対する庶民層の「格差感覚」が根強い。
政治問題にも発展。予想されたことだが、民主党急進左派のウォーレン議員がツイート、さらに20分以上のテレビ生出演で「SECは手ぬるい」と強硬論を語った。「そもそもコロナ禍で多数の失業者が苦しむ状況で株式市場というカジノを放置するのか。SECは価格操作に甘すぎる。富裕層課税も当然だ」。けんか両成敗というより、ヘッジファンドを想定した発言が目立ち、レディット投機家集団に関して問われると、調べてみないと分からないとの姿勢であった。議会公聴会での議論も視野に入る。
ウォール街でも激論が交わされる。筆者が参加している30人ほどの私的グループ内のZoomテレカンファレンスでも、普段は仲の良い仲間たちが、けんか腰で言い合い、一時は収拾がつかなくなったほどだ。本来、今週は重要な決算ウイークで米連邦公開市場委員会(FOMC)もあったのだが、話題はレディット関連一色だ。
ウォール街を敵視する個人投機家集団が、ネット上で結束すれば、ヘッジファンドを締め上げることもできる術を覚えた。これは一過性では済まされない。
さらに、バイデン政権の掲げる規制強化、法人増税、株式売買益課税などがハネムーン期間後には浮上する可能性もあり、心中穏やかではない。火の粉はパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長やイエレン財務長官にまで及ぶ。
そもそも、過剰流動性や一律個人給付金が、自宅待機で時間を持て余すミレニアル世代の射幸心を刺激したのではないか、との指摘だ。
問題は、フェイスブックやツイッターなどのネット・プラットフォーム規制関連にも飛び火。レディット規制論まで飛び出す。レディットは本来「なんでもお助けサイト」的な存在で筆者も時々英語の単語に迷ったときなどお世話になっている。今回はそのなかの「ウォールストリート・ベット(賭けの意)」が個人投機家連合の場になった。そこで、若者投機家の親たちからは「ネット上の暴徒が、我が家の息子を鉄火場に誘い込んだ」ごとき批判が出てきた。議会占拠事件の衝撃が生々しく残る発言だ。当のレディット創始者に対しても厳しい視線が向けられるが、「まさか、こんなことになるとは」と絶句のごとき状況だ。
さて、この問題は、日本にとって、「対岸の火事」では済まされまい。東京株式市場の売買の7割前後はガイジン・プレーヤーによって占められ、時には荒らされ、日中からダウ時間外先物相場に一喜一憂しているのが実態だ。最後は日銀頼みの官製相場。ニューヨーク市場のグループ内では、東京市場が、コロニー(植民地)とまで言われている。自分たちである程度操れる市場との意味だ。日本の個人投資家は略称インバ(逆張りETF)がお好きでネット証券会社の主力商品、との定評も心得ている。
そこに、コロナ禍で自宅待機が増え、ネット証券口座が急増した。米国人個人投機家集団がネット上で結束してプロに勝った、という事例は刺激的だ。筆者もネット・セミナーで接しているが、課題は、お行儀良い短期投資、あるいは、長期的積み立て制度に軟着陸できるか。ここは金融リテラシーのレベルアップが急務だろう。まだ株式投資初心者にとってESG(環境・社会・企業統治)投資への理解へのハードルは高いが、初期時点からの啓発が必須だ。
難局だが、株式市場新規参加者の登場は、「貯蓄から投資へ」の健全な流れを後押しする、またとないチャンスでもあるのだ。
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January 29, 2021 at 10:35AM
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米ネット株式市場の炎上、日本も人ごとではない - 日本経済新聞
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